TECH TOPICS

技術トピックス

2021.11.10

2021.11.10

専門情報

LCA(ライフサイクルアセスメント)と直接接合

LCAとは

LCA(ライフサイクルアセスメント:Life Cycle Assessment)とは、ある製品・サービスのライフサイクル全体(資源採取→原料生産→製品生産→流通・消費→廃棄・リサイクル)又はその特定段階における環境負荷を定量的に評価する手法です。LCA については、ISO(国際標準化機構)による環境マネジメントの国際規格の中で規格があり、わが国でも LCA を取り入れている企業が増えています。

LCA規制の影響

わが国の重要産業である自動車業界では LCA 規制が自動車の走行だけではなく、製造/販売やリサイクル、そしてそのエネルギー源まで包括的に CO2 を捉える枠組であるため、後のEV戦略の評価軸にも影響を与える可能性があります。具体的には、走行時の CO2 排出量だけを見る現行の環境評価では EV の CO2 排出量はゼロで一見理想的ですが、LCA を適用すると、EV は電池製造時の CO2 排出大きいため車両製造時の CO2 排出量は ICE(ガソリン車)の2 倍にのぼり EV の優位性は小さくなります。

特に現在の EV 評価の一つである巡航距離を延ばすために大容量の電池を搭載すると、自動車の寿命走行距離が短い場合(10 万キロ程度)ICE の方が LCA 評価は高くなる可能性があります。また、電池製造時に使用する鉱物を考えると500 ㎏のEV用バッテリーを作るのに250トンの鉱物を必要とし、これを分離運搬する
必要があり、大量の化石燃料使用に伴うCO2 排出も加算される必要があります。以前、ヨーロッパの自動車メーカーはディーゼル問題で優位性を失いました。今は、それを挽回しようとEV に傾倒しています。ところが一方で CO2 削減の主導権も握ろうとしています。

この様にリチウムイオン電池製造時の大量に排出される CO2 は、自己矛盾を含んでいますが、グレーゾーン化してお茶を濁している状況です。しかし、この件は早々に明確になり、規制され新たな問題になる可能性があります。

このような状況の中で今後EVが増えるのか、ICE が生き残るのかは不明確ですが、確実に言えることは、製造時及び使用時 CO2 排出量削減のため各自動車メーカーは、CO2 排出が低くなるように、リサイクル可能でかつ軽量で高強度材料の製造や加工を行う工程を新規に考えることが必須となります。

新たな工法の必要性

これに伴い新たな工法を見出す必要性が出てきています。例えば、今まで軽量のための最も有効な素材として CFRP が脚光を浴びていましたが、CFRP は製造時の CO2 排出量が約 15kg(炭素繊維を 50 質量%含む CFRP で 1kg 当たり)と鉄鋼の排出量は約 2.3kg よりかなり大きく、アルミニウム合金の約 11kg よりも大きく、強度維持したリサイクルは困難なため LCA 評価の低い材料となってしまい、大量に使用することは困難になります。

そこで、自動車全体に CFRP を使うのではなく、適材適所に複合化し使用することによって、LCA 評価を悪化せずに軽量化することが必要であると考えられます。

LCA評価を考慮した素材複合化の課題

この様に適材適所に素材を複合化して、LCA 評価を悪化せず軽量化する場合重要と思われ
る課題を以下に示します。

1)複合時のエネルギー使用量の最小化
2)接着剤やリベットなどの副資材使用量の最少化
3)複合部品を使用寿命後、分別リサイクル可能

LCA評価の課題に対する当社接合手法の優位性

我々は、複合化素材を金属部品の軽量化、樹脂部品の強度向上を目的として、金属と樹脂との複合化に対して、直接接合手法について研究開発しています。直接接合の内容は、金属部品と樹脂部品を作成してから接合する工法で、金属処理にレーザ照射による凹凸形成、接合工程に誘導加熱を用いた加熱圧着を用いて、金属と樹脂とを主にアンカーによって直接接合しています。現在、我々が行っている直接接合が LCA 評価に対しての課題に対して優位性を持った加工方法と考えられる点を以下に示します。

1)
複合時のエネルギー使用量は、表面処理をレーザ、接合を誘導加熱とエアシリンダーによる電気エネルギーだけなので算出が容易です(使用エネルギー量は接合面積や接合材料によって異なります)。化学薬品などを使う工法では廃液処分時の CO2 排出量が困難です。


2)
我々の直接接合技術(ALTIM)は接着剤やリベットや化学薬品などの副資材を用いないため、これを製造する際の CO2 排出量が無いため LCA 評価には有利になります。


3)
複合品の分別リサイクルに関しては、接合がアンカーで行われており理論的に複合品を分離の可能があることから、今後重要な課題として取り組む予定です。


【参考:LCAとは】

LCA は自動車の生産/使用/リサイクルといったライフサイクル全体で環境に与える負荷を総合的に評価する手法です。自動車に関しては、大きく以下4つのポイントに分けられます。

A. Well to Tank 燃料を生産から自動車の燃料タンクに入れるまでに排出した CO2 量。
EV であれば発電、電池貯蓄時の CO2 の合計排出量。
B. Vehicle Production 車両生産時の CO2 排出量
C. Tank to Wheel 車両走行時の CO2 排出量
D. End of life リサイクル時の CO2 排出量


※出典:ゴールドマンサックス
「CO2 規制の新局面: EV は「走り方」だけでなく「作り方」も問われる時代に」

関連記事はこちら

金属と樹脂接合の試作・
技術的なご相談はこちらから